なんで。

なんで、なんで……!



視界が霞んで、歪んで……ようやく瞳が潤んでいることに気づいた。


それでもいい、どうでもいい、と。

走って走って、早くあの場から逃げたくて。

呼吸が浅くなるのもかまわずに走り続けた。



憧子ちゃん、どうして……?


心臓を握りつぶされたかのように、身体の真ん中から激痛が広がっていく。

つ、と涙が頬を伝った。



忘れ物を取りに行くだけのはずだった。

今日に限って、たまたま数学のノートを机に置きっぱなしにしていた。課題が出ていなければ、家に着いてもなお気づかなかった。


運がなかった。


まさか、憧子ちゃんと宇月くんがキスするところを、タイミング悪く目撃してしまうなんて。



顔を近づけていた二人。

憧子ちゃんは目を閉じていた。


もしかしたらキスをしたあとだったのかもしれない。



思い出しただけで、吐き気をともなうほど苦しくなった。



夏休みに、憧子ちゃんに伝えた。

恥ずかしい気持ちを抑え、勇気を出して打ち明けたのに……。


宇月くんが、好きだって。


なのに、キス、していた。

裏切られた、と、思ってしまった自分がいた。



……ちがう。

本当は、心のどこかで思ってる。


憧子ちゃんはそんなことをするような人じゃない。


あたしの親友だもん。
信じなくちゃ。


信じたい、そう、思ってる。

だけど、思うたびに、どんどん悪い方向へと考えてしまう。