この恋、賞味期限切れ




――ガラッ!


静寂をやぶる、勢いあまった物音。


扉が開いた。南かもしれない。

すぐに振り向くと、



「あ、よかった〜。まだ残ってて」



……南ではなかった。


安心顔の舜ちゃんだった。

ライトブラウンの髪がオレンジ色の日差しに透けて、さらに明るく見える。


なんで舜ちゃんがここに……?



「これ、返すの遅くなってわりぃ! 助かった。サンキューな」



声をなくす私に、近づいてくる。

机に英和辞書を置くと、舜ちゃんは南のいた場所に腰を下ろした。


なんで……っ。


私は黙り込んでしまった。



「……憧子?」

「……っ」

「どうかしたのか? 具合悪い? あ、返すの遅くて怒ってんのか?」



ちがう。舜ちゃんは何も悪くないよ。

私がバカだったの。


黙ったまま頭を振れば、舜ちゃんは怪訝そうにする。



「じゃあなんで……」



ポタリ。

机に、涙が滴り落ちた。



「……なんで、お前、泣いてんだよ」



舜ちゃんにしては珍しい真っ直ぐな声音だった。


木製の机の表面に、涙はしみていく。

うっすらと残った跡さえも、簡単に消えていった。


ちがう。ちがうんだってば。

泣いたってよけいに苦しくなるだけなのに。


本当は涙を止めたい。けど思うように止まってくれない。


何もかもうまくいかない。



「っ、しゅ、んちゃ……」

「何が、あったんだよ」



どうして舜ちゃんは、いつも泣いているときに現れるの?



「なんでもない……っ」

「嘘つけ! なんでもねぇわけねぇだろ!」



こういうときだけ、いつものゆるい口調じゃなくなる。

容赦ないな……。

弱くなってる心を揺さぶってくる。



「言えよ。俺が、なぐさめてやっから」