昔は何度も握っていた手のひらから、放れたのは、舜ちゃん。
舜ちゃんが先に、手を離したんだよ。
正直に言うと、ね。
私。私は。
今の舜ちゃんよりも、昔の、近くでわかちあっていた舜ちゃんが好きだったよ。
ごめんね。
「……」
「舜ちゃん……?」
「……教えな~い」
しばし沈黙を守っていた舜ちゃんは、うすい唇でゆるりと弧を描いた。
私のおでこをツン、と軽くつつき、にししといたずらっ子のように笑う。
「な、何それぇ……」
「ひ、み、つ」
語尾にハートマークでもつきそうなくらい、どこから出しているかわからない裏声で言われ、背筋がぞっとした。
舜ちゃんは口元に人差し指を添え、ぱちりとウインクする。
秘密って……。
教えてくれないのか……。ちょっとショック。
それほど特別な理由なのかな。
「それより、英和辞典貸してくれよ~」
「わかったわかった。プレミアムスイーツ二つ、忘れないでよね」
「ラジャー!」
舜ちゃんが敬礼したのを横目に、ロッカーから英和辞典を取り出した。
「はい、英和辞典」
「痛っ! もっと優しくしてくれよっ」
「優しくしたつもりだけど?」
重い辞書を、舜ちゃんの両手の上に勢いよく乗せた。バンッ!と大きな音が鳴る。
別に、八つ当たりじゃないから。たまたま手が滑っただけだから。わざとじゃないもん。



