私は意地でも辞書を使わない。
ちっぽけなプライド。辞書を使わなくても、難しい言葉をわかってますっていうオーラをかもしだす。
しりとりで強がる私って、ほんと、かわいくない。
どれくらい続いただろう。
南の辞書を引くスピードが速くなってきた。
「因果応報!」
いつの間にか四字熟語縛りになっていた。南がこれでどうだと自信ありげに鼻を鳴らす。
「う……う……」
もうすでにお互いに眠気はまったくなかった。それはしりとりのおかげなのか、南とだからなのかはわからない。
「お、ギブアップか?」
「ギブアップなんてしないし! もうちょっと待って!」
負けてたまるか!
う……う………、……あっ!!
「雨過天晴!!」
中学のときに教わった熟語がぱっと浮かび、嬉しさのあまり叫んだ。
……そう、叫んだ。
それも立ち上がって、それはそれは意気揚々と。
「お、おい、松井……」
「……えっ?」
南が顔を青くして、私の後ろを指差さす。
いやな予感。
私はおそるおそる振り返った。
「松井さん?」
ぎゃっ! 鬼!
背後には、今にもツノが生えてきそうないかつい形相をした先生がいた。



