アイツのいない夏休み。

いつものエレクトーン教室には二度ほど通った。

だけど……アイツが居なくなっちまっただけで退屈なんだ。


エレクトーン教室もかったるいだけで、
レッスンはサボるようになった。


だけど……俺の耳はエレクトーンの音色には反応するんだな。




マクドナルドのポテトやバーガーを食べながら
俺は窓越しに、その楽器屋のエレクトーンを見つめた。




「秋弦、未練たらたらだね」

「うっせぇーって」

「奏音ちゃん、どうしてるだろう。
 可愛かったんだよな、奏音ちゃん。

 エレクトーン演奏してる姿も可愛くて
 後ろから抱き付きたくなるよな」


「って、てめぇー。
 うるせぇーって奏音は誰にも渡さないって言ってんだろうが。

 アイツはガキの頃から俺のもんなんだ」

「あぁ、また出たよ。
 秋弦の伝家の宝刀。

 そんなに今も思ってて好きなら、
 腐ってないで行動起こせばいいだろ?

 めちゃくちゃ遠距離になったわけじゃない。
 電車に乗ればすぐだし、ちょっと自転車頑張れば通えるだろう」



そう言いながら景は俺を窘めていく。



景の言葉を聞きながら、
俺は……今もアイツを追いかけたいんだと思い知らされる。


何で気がつかなかったんだよ。


隣町くらい、電車ですぐじゃねぇか。
電車代足りなくても、自転車で行ける距離じゃねぇか。




思いたったは吉日とばかりに、勢いよく立ち上がる。




「確かに隣町くらい自転車や電車で行ける。

 そっ、そうだよな。

 景、アイツが行っちまったんなら俺が追いかけりゃいんだよな。

 サンキュー、景。
 解決策はめちゃくちゃ簡単じゃん」



そう言うと俺は目の前のバーガーとポテトを一気に頬張って
ジュースで飲み干した。




「悪い、俺やること見つかったから先行くわ。
 じゃ、明日学校でな

 王崎さん、三島さんちょっと用事が出来たんで
 今日は失礼します」



そう言って手を振ると俺は鞄を肩からかけて、
慌てて自宅へと帰った。


帰った後は、アイツに教えて貰ったはずの隣町の住所をメモった紙を
必死に探す。



あれ?
何処に片づけた?



アイツが書いた、キティーちゃんの付箋にかかれた
アイツの新住所。


机の引き出しをひっくり返しながら
ようやく見つけた付箋に手を伸ばす。


そしてそこに描かれた住所を
今度はリビングのPCの電源を入れて
住所を打ち込んで検索する。


そして今度は、その先。
アイツの自宅付近にある音楽教室を調べていく。




田辺音楽教室
ヤマハ音楽教室F店

うーん、長谷川ってどっちだ?
エレクトーンか?
ピアノか?




わかんねぇーぞ。



後は……大田?



なんだよ、ここは。

音楽教室って簡単に言っても何の楽器の教室か書いてねぇと
わかんねぇーって。




PCを見つめながら一人でブツブツ、
イライラしてると、玄関から母ちゃんが姿を見せる。




「秋弦、アンタ帰って来てたんだ」

「帰ってくるだろ。
 家なんだから」

「いやっ、そう言う意味じゃなくてさ。

 アンタ、奏音ちゃんが引っ越してから
 外で友達と過ごすこと多くなったからさ。

 景くんのところかなって思っただけだよ。

 今からご飯作るから」



母ちゃんはそう言うと台所に向かって、
椅子の背もたれにかけていたエプロンを身に着けた。



そんな母ちゃんを見送って、
音楽教室の名称をめもる。