【10年後】




私は……久しぶりに、
大田音楽教室を訪ねた。




中三の12月。

コンクールのグランプリをとってから、
本気で音楽科のある高校を目指した。



目指した先には誠記さんや史也くんの母校である、
悧羅学院。





途中からの外部編入の壁は険しかったけど、
一応、コンクールでグランプリをとった
成績も踏まえて評価されたのか入学が許された。



少しでも自分の実力を試したくて、
通いなれた大田音楽教室を離れた。



指導者をかえることで、
今以上に成長できるかもしれないと期待をしたから。



そして3年間の月日が流れ、
私はそのまま大学院までの道程を
悧羅学院で歩いた。



学院を卒業した後は、
久しぶりに再会した、誠記さんと一緒に
ミュージカルの演奏をしたり、
リサイタルを開いたりと、
エレクトーン奏者としての今を歩みだしていた。




今日、私が10年ぶりに
この太田音楽教室に来たのは、
秋弦から、メールを貰ったから。




今度、太田先生が開くエレクトーンコンサートに
誠記さんと私にも出場して欲しいと言う
内容のお知らせだった。






少し古さを感じるようになった
懐かしい建物をゆっくりと開く。





「あら、珍しい。
 奏音ちゃん」




美佳先生が私を見つけると、
そうやって声をかける。



「ご無沙汰しています」


そうやって美佳先生に声をかける頃には、
私の周囲には、小さな子供たちの人だかり。




「奏音って、あの奏音さん?」

「でしょー、
 秋弦先生いっつも言ってたもん。

 奏音の顔がエレクトーンのご本にのるたびに
 
 『よく見とけよ。
  コイツは、俺の女になる奴だからな』って。

 嘘だーって思ってたけど、
 本当に来た」





ってアンタ、
子供たちに何吹き込んでんのよ。 




でも……待って?



えっ、秋弦先生って何?


今、この子たち似合わなすぎること言った気がする。




戸惑ってる私に美佳先生は、
「秋弦先生にお客様ですって、呼んできて」っと
ゆっくりと子供たちに促した。





「音大を卒業した後、
 秋弦君、この学校の先生として働いてくれてるの。

 奏音ちゃんも、誠記君も巣立ってしまって
 この教室を盛り上げてくれる人が皆、居なくなっちゃったって思ってたんだけど
 秋弦君だけが帰ってきてくれたの。

 あの後、秋弦何回もコンクール挑戦して、
 大学2年の時だったかしら?

 見事にグランプリに輝いたのよ」




そう言って、美佳先生は
私が知らないアイツの時間を教えてくれた。





ふいにレッスン室のドアが開く。




男っぽくなったアイツが
私の前に姿を見せる。




「よっ、奏音。
 呼び出して悪かった。

 活躍してるみたいじゃねぇか?」

「ねぇかって、知らないの?」

「知らないわけねぇだろ。
 俺はお前のなんでも知ってるからな」

「何それ?
 
 秋弦、アンタストーカーくさいから。
 その台詞」





久しぶりに再会したのに、
10年って言う年月を考えさせないで
私たちは、あの頃の様にじゃれあってた。






「なぁ、そろそろ一人旅終わらせて
 俺のところに帰って来いよ」





ふいに秋弦が真剣な顔して告げる。




はしゃいでた子供たちも
シーンと静まり返って
私たち二人へと視線が集まる。







「あぁ、秋弦先生が告白してるー。

 彼女だって言ってたのに、
 嘘じゃん」





そうやって騒ぎたす子供たち。




困ったような顔をする秋弦。





仕方ない……助けてやるか……。





昔からの腐れ縁の幼馴染。






私から史也くんの存在を恋人候補から取り除いたら、
秋弦しか、本当は残ってなかった。




だけどすぐに秋弦を選ぶのは、
史也くんに振られたから、
乗り換えたみたいな気がして嫌だったから。







「秋弦、ただいま」





そうやって、アイツに向かって
声をかけると、
アイツはいつもの調子で切り返した。






「あぁ、お帰り。

 まぁ、お前がそろそろ帰ってくるのは
 わかってたけどな」



そんな風に微笑みながら、
私の体を抱きしめた。