携帯電話にナンバーを表示させて
コールボタンを押す。


二回くらいのコールがなって、
久しぶりに、電話が繋がった。




「もしもし、奏音です。
 
 えっと……お話したいことがあって。
 何処だったら逢えますか?」



勢いに任せて、一息に早口でいいきる。




「わかった。

 ファイナル、出場おめでとう。
 秋弦と二人、見事な演奏だった。

 見つけた……。
 ステージ衣装のまま出てきたらダメだろう。

 肩を冷やしたら風邪をひく」



そう言うと、電話をしている間に
何時の間にか私の姿を見つけて、
歩いてきてくれた史也くんが、
自分のコートを脱いで私の肩へとかけてくれた。





「ここじゃ目立つね。
 楽屋、戻ろうか」




そう言うと史也くんは、
私をエスコートするように会場へと戻り始めた。



会場内を良く知る彼は、
知り合いになっているらしい警備の人と会話を交わして
裏口から入っていく。





そこで着替えを済ませて、
全員が集合すると、
大田先生の車で、開場を後にして
大田音楽教室へと移動した。



史也くんが久しぶりにいる太田音楽教室。


そこで、史也くんだけを
あいているレッスン室へと誘い入れた。






「あの……、お願いがあるんです。

 ファイナルは、リサイタル形式だって言うのは
 プランプリ経験者の史也くんは知ってるよね。

 オリジナルを二曲以上、全四曲構成のリサイタル。

 私……オリジナルを三曲と、
 編曲で出場したいって思ってます。

 今から演奏するから、
 もし史也くんが承諾してくれるなら
 「煌めきの彼方へ」をファイナルで演奏させてください」




そう言って、次回、会場で提出しないといけない受付表を
史也くんの前に差し出した。



編曲の場合は、
その曲を編曲してもいいですよって
作曲した人の署名を貰う欄があるから。



エレクトーンに向かって、
「煌めきの彼方へ」を精一杯演奏する。




演奏を聴いた後、
後ろを振り向くと、
史也くんが静かに涙を流してくれてた……。





「えっと……史也くん?」




戸惑いながら、返答を求めるように
名前を紡ぐ。





「あっ、悪い。
 奏音、いいよ。

 奏音の気持ちが沢山伝わった、
 一曲に仕上がってる。

 あの頃の俺には見えてなかったものが
 その曲にはプラスされた気がするよ」





そう言って、史也くんはファイナルの書類に
サインをしてくれた。





「頑張れ、奏音」




そう言って私にエールをくれて、
史也くんは大田音楽教室を友達と一緒に後にした。





史也くんが居なくなった教室。


とりあえずファイナル出場を祝う、祝勝会な雰囲気が漂う
その場所で、二人きりになった途端
秋弦が私を、レッスン室へと呼び出した。








「奏音……。

 何回も今まで言ってきたけど、
 お前、どんくさくて、にぶちんで気が付かないから
 もういっぺん言っとく。

 俺は松峰奏音が好きだ」




って……えぇ?



秋弦の分際で、何いきなりいってんのよ。
唐突過ぎるでしょ。



こんな場所で告白って、
ありえなくない?






不意打ちくらった私は、
多分、鳩が豆鉄砲くらったみたいな形してると思う。


まっ、見たことないんだけど。