観客席で見守るように友達と視線を向ける。







観客側に笑みを浮かべて、
私はエレクトーンへと移動した。



データーを読み込んで、
そのまま演奏体制に入る。





この二曲を必ず成功させる。



そして、今年こそ
ファイナルに進出して見せる。





そして……まだ史也くんの許可すら貰えてないけど
彼の曲をリサイタル形式のコンクール内で演奏する。






ただその夢に向かって、
ひたすら演奏に集中する。







順調にリズムにものれてる。




指先の表現力も途切れることなく伝えられてる。






10分間の演奏を終えて、
私はエレクトーンの椅子から降りると
ゆっくりと観客にお辞儀した。






秋弦の時以上に拍手に包まれて
再び、私はその場でお辞儀する。





ステージから降りた時、大田先生と美佳先生が、
それぞれに抱きしめてくれた。





「先生……観客席に史也くんが居たんです。
 来てくれてた……」




そうやって呟いた私に、
秋弦は「ったく、お前はまた史也かよ」って
不貞腐れるように告げた。





審査の時間を待って、
ついにファイナルへの出場を告げるその瞬間。




私は秋弦と肩を並べて、
祈るように両手を組みながら
待ち続ける。





「ファイナルに出場出来る選手を発表します。


 市川音楽教室。
 高校二年生、長谷川南海【はせがわみなみ】さん。

 
 東学院電子オルガンコース、高校一年生。
 戸田陽子【とだ ようこ】さん。


 同じく東学院、音楽コース。
 高校三年生、刀根崎大地【とねざき だいち】君。

 大田音楽教室、中学三年生。
 泉貴秋弦君」







コールが鳴り響いた途端に、
秋弦は私の隣でガッツポーズ。





今で4人。



ファイナルに出られるのは、
後一人。




最後の一人の枠をかけて、まだ名前を呼ばれていない人たちは
一斉に祈るようなしぐさでコールを待つ。





「ファイナル最後の出場者は大田音楽教室、中学三年生。

 松峰奏音さん」






会場内いっぱいに
告げられた私の名前。




信じられない気持ちで
いっぱいになりながら、
私は次のファイナル出場者の受付表が入った
封筒をゆっくりと受け取った。






「太田先生。

 私、この書類を持って
 史也くんにあってきます」

「あぁ」





断りを貰って、私は携帯電話を握りしめながら
会場の外へと走り出した。


演奏していたステージ衣装のままだけど、
それでも立ち止まってしまえば、
史也くんは帰ってしまうから。