季節は過ぎてコンクールが始まった夏。


予選のビデオ審査を勝ち得た俺と奏音は、
順調に各会場で催された第一次審査、第二次審査と通過して
今年も11月のセミファイナルへの出場を確定させた。




史也のお父さんは今も意識が戻ることがないけれど
アイツも新しい自分の夢に向かって歩きだしてた。



アイツの隣には今は同じ夢を抱いた若杉さんの存在がある。




セミファイナル出場が確定した時も、
俺は真っ先に、史也の元を訪ねた。




受験勉強に慌ただしいはずなのに、
アイツは、俺が顔を出すと精神的にも慣れてきたのか、
生活のスタイルを変えたのかはわかんねぇけど
会話をしてくれるようになった。





「おめでとう。

 去年は、秋弦も奏音も
 セミファイナルで落選してしまったから。
 
 今年は……頑張って」

「あぁ。
 そうだ、エレクトーン借りていいか?

 本番前の予行演習だ。
 俺様のオリジナル、聞かせてやるよ」




聞かせてやるなんてどの口がいってんだよ。



だけど……聞いて欲しいなんて、
素直に言えるようなたまでもないからな。




何時まで経っても、
俺はお前の前では素直になれない。




お前は今も、
俺にとっては奏音を争うライバルなんだ。





アイツの相棒を借りて、
データーを取り込むと、
俺は「アイツの応援歌」として
必死に完成させた曲を演奏する。



『KICK OFF』



っと名付けた始まりの曲。





俺のKICKOFF。
アイツのKICKOFF。






そして奏音に今も何も伝えられずに
燻ってる俺へのKICKOFF。



フィールドに立たないと何も始まらねぇって良く分かったから。








一気に4分半ほどの演奏を終えると、
相変わらず、史也は涼しい顔して俺を見つめた。




チクショー。




アイツの表情、変えさせらんねぇか。





「秋弦、演奏は良かったよ。
 俺へのメッセージも受け止めた。

 だけど……KICKOFFと名付けられたその曲には
 別の意味もあるよね。

 さしあたり、奏音へのラブソングとも言えるのかな?」






お前が奏音ってアイツのことを呼ぶだけで、
イラっと嫉妬しちまう俺が居る。




なぁ、俺……アイツに好きって伝えてもいいのか?



アイツの心に史也が居るのはわかり切ってる。




だけど……。




「なぁ、お前ってさ……
 好きなヤツいるの?」




勇気を出して問いかける。




居るよって言われたらどうしよう。
奏音の……アイツの名前が出てきたらどうしよう。



そんな不安だけが押し寄せてくる。