セミファイナル。

ファイナルに進出できなかった俺と奏音。


その日、俺たちは史也が音楽教室をやめて
エレクトーンもやめることを知った。


史也の夢を受け継ぐって決意した奏音。



だけど奏音の決意は、何処かからまわりで、
思うような演奏が出来ないまま年が変わろうとしていた。


一月。


何時もの様に、学校の授業を終えて音楽教室へと顔を見せる。



Sクラスの教室内にもうアイツの姿はない。



史也の代わりに俺たちを導いてくれるのは、
あのコンクールのファイナルで見事グランプリに勝ち残った
誠記さんの存在。



プリンスが消えても何一つ変わらない。





「おはようございます」




音楽教室のドアが開いて
奏音が誠記さんの妹である由美花ちゃんと姿を見せる。



ピアノに転向したっとエレクトーンから遠のいていた
由美花ちゃんが奏音の演奏をきっかけに再びエレクトーンを始めた。



奏音が、史也に憧れて始めて俺が奏音に惹かれて始めて……
そして由美花ちゃんが奏音に感化されて再び再開を決意した。



そんな風に時間と共に繋がっていく。




だけど……同じように見える日常でも、
違う奴には違うんだ。





あの偉そうなプリンスがいるのと居ないんじゃ、
張合いも変わってくる。




アイツは俺のライバルなんだ。





誠記さんは憧れ。

アイツは……ライバルなんだ。




なのに……ライバルが居ない教室、
ライバルが居ない現実。




もやっとする気持ちだけが、
俺自身を包み込む。






「秋弦、何やってんの?
 美佳先生が呼んでるよ」






アイツを思い出しながら、
ボーっとしていた俺に、
奏音が話しかけてくる。




「あぁ、悪い。
 ちょい考え事」





っと言ったものの奏音にとっても史也の名前なんて今は
出さない方がいいと思うんだ。


俺以上に、アイツの方が
絶対寂しいと思うから。



奏音に俺を見て欲しい。
奏音に俺を選んでほしい。





だけど……
それは、アイツが
消えた世界じゃないんだ。






「誠記さん、すいません。
 
 中級クラス、アシスタント入って貰えませんか?
 俺、用事思い出したんで」




そう言うと、教室の出口の方へと歩いていく。