史也くんの曲は全部お父さんへの応援歌だって
昔、読んだ雑誌に書かれてた。





だからこそ、史也くんを思うと、
胸がキューっと苦しくなった。







コンクールが終わった数日後。




大田先生の元に、史也くんから正式に
「教室をやめる」という連絡が入った。


一報を聞いた大田先生は、
私にありのまま教えてくれた。


そしてこうも続けた。



「奏音ちゃんが史也に憧れて
 エレクトーンを始めたのは知っていた。

 君の弾き方はあまりにも史也に似すぎていた。

 だけど三月のあの日から、
 君は本当の意味での君の演奏に目覚めた。

 史也は電話の向こうで言ってた。

 アイツは今から医者を目指すんだと。
 
 医者を目指して、親父さんを目覚めさせたいらしい。
 アイツの同居している友達と一緒に」

「史也くんがお父さんの為にお医者さん?」

「あぁ、後はこうも言ってた……。

 エレクトーンの世界には、
 今は松峰と誠記がいるってさ」



私と誠記さんがいる……?



秋弦の名前はないんだって思いながら、
不貞腐れる秋弦を思い浮かべる。




「君のその音で、史也の夢と意思を受け継ぐかい?
 
 アイツが奏音ちゃんに託そうとしている夢を抱えて、
 その音で新たな未来に向かって歩き出すかい?」






大田先生の言葉に、
私はゆっくりと頷いた。