史也くんが教室に来なくなって
貴方の声を聞かなくなって何日も過ぎた。




毎日毎日、明日になれば「史也くんにあえるかも」って
そうやって自分に言い聞かせてレッスンに集中する。



コンクール前の大切な時期だもの。



練習は絶対にサボれない。




絶対にサボれないのは心ではわかってるつもりなのに、
どうしてだろ。




体が日に日に、重く感じる。





ミスタッチの量も、表現力の乏しさも気が付いているのに
ちっともなおってくれない。



なおらないどころか、練習すれば練習するほど
悲惨なことになってる気がしてそんな自分が許せなくて苦しくなる。





ずっと楽しいって今日まで走り続けて来られた
エレクトーン。




幼い時の史也くんと同じ舞台に
もうすぐ立てるかもしれないのに。




あの時は、ただの憧れで遠いだけだった
史也くんと一緒に……。







必死に自分を支えて立てなおそうと
躍起になってた練習。



だけど倒れてしまったのかコンクールの前日、
私が気がついたのは真っ白な壁が印象の病院のベッドで
私の腕には点滴の針が刺さってた。




隣には心配そうに私を見つめる
お母さん。





「お母さん……」




喉がペタリと貼りついたような感覚で
なかなか声が出せないままに声を出す。





「奏音、心配したわよ。
 大田先生と秋弦君が助けてくれたのよ。

 史也くんの事、心配よね。
 でも今は、何も考えずに眠りなさい。

 お母さんが傍に居てあげるから。
 点滴が終わったら、帰りましょうね」



そうやって続けたお母さんの声に
安心したように、再び眠りについた。




その後は、多分……お母さんが一度私を起こして
病院から家まで連れて帰ってくれたんだと思うけど、
その辺りの事は全く覚えてない。


そして迎えたのが今日。





朝、自分のベッドから抜け出して
ダイニングに顔を出した私を見て、
お父さんも、お母さんもびっくりしてた。



「奏音、体調はいいの?」



そうやって額に手を添えてくるお母さん。



新聞を見る視線を私に移して、
お父さんは黙ったまま、私を見つめる。



「大丈夫。
 今日はコンクール本番だから」

「だけど奏音、まだ熱が下がってないのよ。

 大田先生も昨日、無理はしないようにって
 言ってくださってたから……。

 コンクールは今年だけじゃないわ。
 奏音がずっと頑張って来てたのは、
 お母さんもお父さんも知ってるわよ。

 だけど……ねぇ……、お父さん」



そう言って私を止めようとするお母さん。



お母さんが心配に思う気持ちもわかるけど、
私は史也くんを信じていたいし、
自分自身の心にも嘘は付きたくない。




ちゃんと出場したいから。