「あっ、秋弦も来てたんだ。
 史也さん、有難うございます。

 私、もう少しリードボイスの演奏の仕方、
 学習します。

 あんなに息遣いを意識するだけで、
 エレクトーンって、変わるんですね。

 音に命を宿らせる。
 言われたことが分かった気がしました。

 家にエレクトーンがなくても、
 練習できる。

 オーケストラ、この間録画したんです。
 あれを見ながら、各楽器の息遣いとか特徴とか
 自分の中で刻み込んで、物にして見せます」


「楽しみにしてるよ」








って嫌でも聞こえてくる会話に耳をダンボに聞き耳立てながら、
拳を握りしめる。





奏音を泣かされるのもムカつくけど、
やっぱり俺の目の前で、
ベタベタするこいつらを見るのもムカつく。



知成さんの作ったケーキを
三口くらいで食べ終わって、
紅茶を飲み干すと


「先に俺、練習してるから。
 次は二級の試験」




そう言いながら、耐えられなくなった
部屋を早々に退散する。




応接室に入ってその部屋のエレクトーンの
電源を入れる。







チクショー。


待ってろよ、
蓮井史也。






お前が居るところまで、
ストレートで登りつめてやるから。





奏音が好きなのは、
蓮井史也だってめちゃくちゃ伝わってくる。





俺なんて、
今の時点で玉砕してる。




玉砕しても、
未練たらたらなんだ。




諦めるなんて出来ねぇ。






諦めらんねぇよ。





何時か、
振り向かせてやるから。






アイツに見せる笑顔以上の
笑顔で、
アイツを幸せにしてみせる。










アイツを思う
奏音を知りながらも
それでも傍に居たくて……。








そんな切なさを
即興の調べに乗せて……。