【四月】


桜の花が満開に咲き誇る頃、
俺はアイツに内緒で編入試験を受けた
藤宮学院で晴れて中等部二年へと進学を許された。


K中学と、この藤宮だと偏差値や学力レベルの問題も大きかったが
何とかエレクトーンの合間に、史也たちにこっちの勉強も教えて貰いながら
この日を迎えた。


「よっ、奏音」


藤宮の制服を身にまとって、
校門の前で奏音に声をかけた途端、アイツは驚いたような表情を向けた。


「って、アンタなんでここの制服着てんのよ。
 えっ?何?どういうこと?」

「藤宮に行きたいって言ったら、親父も母ちゃんも反対しなかった。
 K中より難しい進学校だしな。

 親父なんて奏音ちゃん追いかけて、何処までも頑張れ青少年ってご機嫌だったぞ」


そんな話をしながら、ずってやりたくて出来なかったことを強行する。


さり気なく、アイツの隣肩を並べて校舎の中に入っていく。



「あっ、秋弦君だ。
 編入おめでとう、良かったね」


由美花は俺が藤宮を受験することを知ってた為、
すぐに会話の中に入って来る。


クラス発表のボードを確認して、
ガッツポーズ。


三人揃って同じクラスメイトと慣れた俺たちは、
その後は始業式に参加して、HRへと顔を出した。


二年生の教科書を帰り道に売店で受け取って、
それぞれが向かうのは、大田音楽教室の最寄り駅。



駅の構内で由美花と別れて、
俺と奏音はそのまま教室の方へと足を向ける。




「今日は負けないから。
 私もすぐに、三級に戻るんだから」


そう言って奏音は、俺の隣でヨシっと自分に気合を入れる。


「俺も次の進級試験で昇級するし。
 誰がお前を待っててやるかよ」


その後は、競争のようにお互いの歩くスピードが速くなって
駆け込むように息を切らせて教室のドアを開く。



「まぁ、いらっしゃい」



受付で声をかけてくれた美佳先生。



「秋弦君、藤宮の制服……合格したのね」


その声に俺は堂々とピースで答える。



教室についた途端、奏音は早速、
空いている教室のエレクトーンを借りて練習に籠ってしまった。



*


二月の下旬。
学校前で待ち伏せして繋ぎとめたアイツ。


エレクトーンから遠ざかってた奴を繋ぎとめたのは、
俺なのか誠記さんなのか史也なのか正直わかんねぇ。



けど……その日からアイツは変わった。



三月になって、アイツは太田音楽教室に謝罪と共に
再び復帰したいと戻ってきたが三級にアイツの居場所はなかった。


アイツがへ来なくなったその定員に、
俺が三級生として入学を許されたから。


アイツは一つ下の上級くらいからの出直しを余儀なくされた。


そしてもう一つはエレクトーンの問題。



アイツがエレクトーンから離れようとしていた間に、
処分されたアイツの相棒。


家に相棒がないアイツは、教室の空いているエレクトーンを
一時間500円でレンタルしては必死に練習を続けていた。



*