その度に、コイツを越えたいって
奏音を振り向かせるためだったエレクトーンの存在が
何時しか、別の意味へと変わっていた。



確かに奏音を振り向かせたい。



その想いが残ってるには残ってるんだけど、
純粋に今は、エレクトーンで俺が何処まで出来るか
挑戦してみたい。



そんな風にすら思うようになってた。




「ティンパニー音が足の時の弾き方とベースの弾き方だと、
 楽器が違うから、必然的に踏み方が変わってくる。

 全ての楽器と全ての音、癖を武器にして表情をつけるんだ」



言われるままに貪欲に吸収する。




今はコイツから学ぶことばかりだけど、
俺はコイツを越えてギャフンと言わせてやる。



俺は俺にしか作れない
音楽を作り出してやるんだ。





そう思って練習に明け暮れているとアイツは、
同じ部屋の中で完成したばかりのリズムを鳴らしながら、
今作曲しているらしい曲をゆっくりと完成へと近づけていた。





ふいにガチャリとドアが開いて、
誠記さんが姿を見せる。






「悪い、史也。

 せっかく打ち込んだリズムに酔いしれてるところ
 悪いけど、俺ならこうするぜ」




そう言いながら誠記さんは、
特技のリアルタイムパーカッションで
指先だけでリズムを生み出していく。





最初は、エレクトーンとじゃれてるだけに見えた。


だけどこの技を目の当たりにして見れば見るほど、凄いって思える。



このやり方をしてパーカッションをしてる
史也の姿は見たことない。



このやり方まで、俺は自分のものに出来たら
エレクトーンはもっと楽しくなるんだろうか。





言われた課題をやる手を止めて、
エレクトーンの画面を見つめる。



よしっ、このボタンを押してリズムスタート。



メトロノームの様に、カウントが始まると
楽器のイラストを手掛かりに鍵盤を指先で弾いてみる。



まずはスネアだろ。


スネアを右の中指で演奏してキープ。
んで、ハイハット必要だよな。


バスはどうしよう。


鍵盤のイラストから使いたい楽器の音をチョイスすると、
今度は、8ビートや16ビートをゆっくりと指先だけで刻んでみる。


最初はぎこちない演奏も少しずつ形になってくる。





「秋弦、おかずを入れてみるといい。
 fill In。

 ボタンを押して、自動でfillを入れるのもいいけど
 どうせなら、そこにお前の個性を取り込めよ」


何時の間にか、そう言われた誠記さんに操られるように
パーカーションの虜になる俺。


そんな俺に対抗するように誠記さんも自らのパーカッションを重ねてくる。


それだけでも感激なのに最後には、
俺たちの即興パーカッションに
アイツは即興でメロディーを紡ぎあげる。


その場所その場所で音色が変化していく音。





その音がエスカレートしていくたびに、
俺はそのサウンドの渦の中に引きずり込まれてた。