史也くんに近づきたいっ!!
目指したい。




だけど……近づくことにすら許されない。

何でよっ。

こんなにも、追いかけようって頑張ろうって思ってるのに。




それでも私の練習メニューは変わることはない。

その後も教室のレッスンに通うたびに、
足鍵盤でハノンばかり練習していた。




周囲の皆は、【人魚姫】を連想して、
貴方の中の物語を曲にしてくださいっとか
次から次へと、課題が着々と進んでるのに。



取り残されてる感が漂いながらもヘッドホン越しにハノンを練習して、
その合間に、誠記さんら見せて貰った【煌めきの彼方へ】の暗譜した楽譜を
こっそりと追いかけて演奏する。


だけど……大好きな史也くんの曲を感じているはずなのに、
心のモヤモヤが消えることはなかった。



チラリと史也君の視線がこっちに突き刺さったような気がして、
慌てて足のハノンに切り替える。


だけど史也君は相変わらず、関わってくる気配もなくて、
私はまた目を盗みながらその曲を演奏する。




そんなレッスン時間が終わって、
教室の部屋を出た時、信じられない奴が待機室に居た。



「よっ!!」



そうやって姿を見せたのは、
前の中学で一緒だった、泉貴秋弦。




「秋弦……アンタ、何でいるのよ」

「何って、俺一途だから。奏音を追いかけてな」

「気持ち悪い。
 ストーカーみたいなこと言わないでよ。

 それに私知らない。
 アンタまで、ここに通ってたなんて」




そうやって休憩室で言いあいしてた背後から
投げかけられる声。





「秋弦、奥の第一レッスン室だ。

 早くしろっ。
 明日は、お前の次の進級試験予約してあるんだからな。

 落第なんて、するわけないよな。
 俺が気にかけてやってんだから」



えっ?



何、この会話。



秋弦が、史也くんにレッスンつけて貰ってるってこと?


私はまともに、レッスンなんてして貰えないのに
秋弦のくせに史也くんに。


また一つモヤモヤとイライラが広がっていく。





「わかってるよ。
 俺はお前を超える男だからな。

 明日の試験も、楽勝で乗り越えてやるよ」



そんな大口を叩きながら、
秋弦は告げられた、第一レッスン室の中へと消えていった。




残された沈黙。





第一レッスン室に向かう去り際、
私に向けられたのは、史也くんの冷たい蔑むような言葉。




「松峰、最近の君には失望したよ。

 憧れだけの薄っぺらい想いなら、
 君はエレクトーンから手をひくべきだ。

 辞めればいいよ」





吐き捨てられたその言葉に、
一気に血の気が引いた私は力が抜けたように、
その場所にヘタヘタと座り込む。



だけど史也くんは私に関わるそぶりも見せず、
秋弦のいるレッスン室へと遠のいてしまった。




私の想いを受け止めてくれない
史也くんなんて嫌い。



私の想いを踏みにじる課題も嫌い。
私はもっと史也君のように演奏したいだけなのに。



上手くなりたいだけなのに、
そんな純粋な気持ちが、どうしてわかって貰えないのよ。



悔しくて、
涙だけがとめどなく溢れ続けた。