ここは……誠記さん、こんな明るい音にしてる。


だけど史也くんのは、こんな音に設定されてなかった。
もう……ちゃんと史也くんと一緒の様に演奏したかったのに。



教室ではあんな風に相手にされなくても、
やっぱり私の基準は悲しいほどに史也くんの演奏。



史也くんの存在なんだ。





「いらっしゃい。
 奏音ちゃん」  





何時の間にか、何処かから帰ってきた
誠記さんが姿を見せる。



慌ててキョロキョロと周囲を見渡すと、
お邪魔して、誠記さんのエレクトーンを借りて
一時間半くらい過ぎようとしてた。





「あっ、すいません。
 エレクトーン、楽しくて弾きっぱなしでした」

「あぁ、別に構わないよ。

 何?
 史也の【煌めきの彼方へ】演奏してたんだね」

「はいっ。
 楽譜は、私が耳コピしてた音と殆ど一緒でした。
 
 音の作り方は、違いますね。

 なんか、史也君の音に慣れ過ぎて
 リズムも音も世界感も違和感がありました」

「違和感かっ……」




誠記さんは呟くように小さく告げて考え事をするように腕を組んだ。



「奏音ちゃん、アイツの趣旨がまだわかってないみたいだね。

 わかってたら、そんな言葉が今の奏音ちゃんから
 出てくることがないばすだから。

 今日は、もう終わりにしよう。

 ただ……一曲だけ、今から俺がアイツの【煌めきの彼方へ】を弾くよ。
 君が違和感を感じたそのレジストで」



そう言うと、誠記さんは私を椅子から押しのけるように合図して
自らが所定の位置へと座る。



そのまま始められた演奏はやっぱり、私にとっては違和感が募るばかりで
誠記さんのパフォーマンスがエスカレートすればするほど
史也くんのその曲が穢されていくみたいで許せなかった。 




「何かわかった?」




そう問いかけられた言葉に答えることもせず
私は由美花にだけ「帰る」っと告げてその場所を後にした。



私の中で得た収穫は、
最新機種の表現力が凄いってこと。




そして……益々、新しい相棒が
欲しくてたまらなくなったって事だった。




新しいものに目移りしてしまうと、
家にある今までの相棒が、
凄く価値のないものに思えてしまう。




最新機種に比べて、
出来ないことを数えていく。




あれも出来ない、
これも出来ない、
それも出来ない。





そうやって出来ないものばかりを
数えるようになった子に、愛着が持てるかって言われると、
持てなくて……下取りの値段とかも調べるようになる。


だけど世の中って無常すぎるよ。


購入した時は、100万円を越えてた
上位機種なのに、新機種が出て数年が過ぎるともう殆どの価値がなくなってる。


新機種の購入を条件に頑張って5万円くらいですねって。


5万円じゃ、
購入の足しにもあまりならないじゃん。


上手くいかないことばかりで、
ストレスは溜まる一方。