おはよう、奏音ちゃん。

朝から大変だったみたいだね。
課題頑張って寝落ちしたってところかな?


今日のレッスンも、史也と行けそうなら顔出すよ。
また教室で。


由美花の事、宜しくな。


誠記







「もう……誠記お兄ちゃんたら酷いよね。

 奏音に私の事、宜しくって。
 私が奏音のお世話をしてることが多いのに」



なんて隣で由美花がサラっと一刀してくれるけど、
その言葉に反論なんて出来ない。


確かに私、由美花に迷惑かけっぱなしだしなー。


向かい側の電車が入って、悧羅の生徒たちがホームから消えた後、
私たちの乗る電車もホームへと入ってくる。


缶詰状態で乗り込んで学校の最寄り駅まで辿りついた後も、
学院までの道程、私と由美花は史也君と誠記さんの話題でいっぱいだった。


その後は、教室の話題。



史也君と同じクラスになれなかったけど、
あの日から時折、大田先生や美佳先生に頼まれて、
史也くんと誠記さんがクラスのレッスンに顔を出してくれることがあるから。


史也くんの演奏に誠記さんがリアルパーカッションを
鍵盤を叩いて演奏していた圧巻の演奏も、興奮のままに由美花に報告。



「そっかぁー。
 誠記お兄ちゃん、リアルパーカッションやったんだ。

 あれやってるお兄ちゃんの指、どうなってんのかなーって
 思うんだよね。

 私なんて、どの鍵盤でどの音がなるなんて押してみるまでわかんない」


「うんうん。私もわかんない。

 私のエレクトーンには、一応鍵盤の下に小さく手掛かりになりそうな、
 楽器のイラストは描かれてあるけどやっぱりそれだけじゃ、瞬時に指動かないって。

 誠記さんの頭の中、どうなってんるんだろうって思っちゃった」




思ったままを話し合える、
由美花の存在は私にとって救世主。


教室での愚痴も、史也くんへの憧れも想いも
全部受け止めてくれる頼もしい存在。


「なら今度、私の家に来たらいいよ。

 私も昔、エレクトーンしてた時期はあったんだけど
 私にはエレクトーンが難しすぎてピアノに転向したの。

 優秀すぎるお兄ちゃんと、そのお友達の演奏聞いてたら
 自信喪失するって。
 
 でも奏音は、今も前向きに頑張ってる。
 お兄ちゃんだと奏音のアドバイスも出来るかもしれないから」


由美花の言葉にもしかしたら、由美花の家で「史也くん」とも逢えるかもなんて
一人想像してテンションが高くなってた。


授業の合間の休み時間も、音楽教室のエレクトーンのテキストと睨めっこ。
三段譜を見つめながら、頭の中で音を辿っていく。


そんな私の隣、由美花は携帯を触りながら過ごしてた。


そのまま一日の授業を終えて放課後、
今度は、コイバナを咲かせながら由美花と共に帰宅。



私の想い人は史也君。

そして由美花にも、最近バスケ部の高村先輩が気になりだしたらしく
その話題で持ちきりになる。


「高村先輩、隣のマンションの人なの。
ほらっ、小さい時から……近すぎて気になる人って奏音は居なかった?」


由美花の突然の質問に脳裏に浮かんだのは、
あの秋弦っ!!


慌てて脳内に浮かんだ秋弦の存在を消そうと、頭を振ってみる。