「奏音?

 どうかしたの?
 私たちも電車入ってきたよ」

「うん」



由美花に引っ張られるままに
ホームに入ってきた電車に乗り込む。



満員電車に揺られながら、
先ほどまでの燕尾服の集団を思い出す。



「もしかして……お兄ちゃんの友達の中に
 気になってる人でもいるの?」


「気になってるって言うか……私の王子様。
 黒髪の男の子の隣に居た少し色が抜けた男の子」


「あぁ、蓮井さんだね。蓮井史也さんエレクトーンの王子様でしょ。

 誠記【もとき】お兄ちゃんと友達で、たまにうちに若杉【わかすぎ】さんと来るんだ。

 そっかぁー。
 奏音ちゃん、蓮井さんが気になってるんだ」



って、声が大きいよ。
由美花。



満員電車に響いた由美花の声に赤面しながら、
私は窓の外の景色へと目を背ける。



何時もと同じ景色。


この景色を、
史也君も見てるのかもしれない。



私が見てる景色と、
史也君が見てる景色は、
同じなのかな?

全く違うように映るのかな?





学院の最寄り駅まで満員電車に揺られて、
そのまま一日の授業を頑張った。





睡眠不足は授業時間に睡魔に誘惑される形で
過ぎて放課後。



再び、気力を取り戻した私は由美花と一緒に、
家路へとつく。



学校の帰り道、寄り道して見つめるのは、
髪飾りとか雑貨の専門店。



髪を結ぶための、ゴムやシュシュを買い求めて帰宅すると、
髪型を可愛らしく結いなおしてシュシュを緩めに結びつける。



教室にレッスンに行く準備が整うと、
今度はお母さんが送ってくれる時間まで、
必死にエレクトーンを触って練習する。




昨日も練習していた続き。





そう……。

昨日、この【マイナーセブンス】コードで
失敗したんだ。


それから足は散々だった。


シのフラットだってわかってたはずなのに、
踏み外しちゃって、全部崩れたいった。



昨日躓いたところを、何度も何度も繰り返し練習して、
踏み外さないように、感覚を刻み込んでいく。



足に集中し過ぎると、左手が疎かになる。


左手と右手に集中してしまうと、
足が疎かになる。


左手と足に集中すると、
右を入れた途端に、左手と足が止まってしまう。




やっぱりうまく行かない。






上手く演奏出来ない現状でイライラしながら、
もう一度、リズムボタンを押して演奏しなおす。


そこでリズムの音を聞いて、ちゃんとリズムスピードの表示も確認して
小節を計算しないと。



一度崩れてしまうと、私的には立て直すのは容易ではなくて
そのままお母さんがパートから帰宅して昨日と同じように、
簡単にサンドウィッチを軽く摘まんで車で大田音楽教室へと送って貰った。



昨日と違うのは今日はお母さんは迎えの時間まで自宅に帰るって事。




「行ってらっしゃい。奏音」

「うん、行ってきます」



相変わらず、車内ではプリンスの音色に
沢山満たされて、幸せチャージ。


お母さんの車を送り出して『さてっ、今日も頑張るぞ』っと
鞄を握りなおすと、私は再び、教室のドアを開いた。