視界も耳も、白い光に侵食されて、何も感じない。

うっすらと、手首をつかまれている感覚だけがある。


林太郎、そこにいる?

ごめん、もしかしたら私。


私。





「気を抜くな、“返る”ぞ!」





その声に、はっとした。

四肢が突然、自由になっているのを感じる。


目も、耳も機能している。

髪をなぶる風の流れ、夕暮れの湖と、設営の槌の音。


それと同時に、飛び込んできたのは。



苦しげに咳き込んで、真っ赤な血を吐く、林太郎の姿。



しまった、と伸二さんの声がした。



「林太郎!」



ぐらりと傾いだ身体を受けとめようと、思わず両手を差し出した。

その手に、赤いぬるぬるした塊が滴って、林太郎の喉から、胸を斜めに横切って口を開けている、無惨な傷を見た。

流れ出る血が、私の制服と手を、真っ赤に温める。


林太郎は、私の手をかすめて、草の上に倒れた。

血が脈打つように、地面に溢れ出ていく。

これじゃ、なくなっちゃう、ととっさにその血をせきとめようとして、自分がどれだけバカなことをしているか気がついた。



「林太郎、林太郎」

「すまない、彼を遠ざけようとしたんだが、どうしても手を離さなかった」



伸二さんが林太郎の身体に手をやって、顔をしかめる。



「伸二さん、治せないの」

「無理だ、この人間にそこまでの干渉は、俺はできない」

「なら林太郎、どうなっちゃうの」



林太郎の、真っ赤なシャツにしがみつく私の手も、信じられないくらいの赤さでべとべとだ。

その時、うしろから肩を引かれた。



「あっちゃん、どいてな!」



真っ白な衣服の人影が、まるで林太郎を迎えに来たようで、一瞬緊張する。

神輿役の白装束に身を包んだ猪上さんだった。

担架を持った、救急隊員らしき人をつれている。