病室でか、と驚く私をよそに、林太郎は慣れた手つきで煙草を父親にくわえさせ、火をつけた。

好き放題だな。

だけど、それを許されているのは、本当にもう、時が来るのを待つしかない状況だからだろう。

そう思うと、何も言わない林太郎の心の内が、想像できてつらくなった。


いくらも吸わないうちに、ふっとどこかに吸いとられるように、村長が朦朧としはじめたのがわかった。

林太郎はすぐ煙草を灰皿に捨て、お父さん、と呼びかける。

煙の匂いが途切れると、さっきの匂いがそれにとってかわった。


ふと背後に気配を感じた。

いつの間にかテンが入ってきていた。


林太郎は、気づいていない。

テンはベッドに向かって、親しげに手をひらめかせる。



(えっ?)



振り向くと、村長が林太郎に顔を拭ってもらいながら、ぼんやりと目を開いて、薄く笑った。



「久し、ぶりだな、トワ」

「だから、トワじゃねえっての、あいつは消えちまったんだよ、あんたの性格が悪いせいで」



その真っ向からの誹謗が伝わったのかどうか、村長は口元に笑みを残したまま、動かなくなった。

どこも見ていない目を、林太郎がそっと閉じさせる。

呼吸は極めて浅いなりに穏やかで、どうやら眠ったらしい。


林太郎は、疲れた顔で、父親を見守っていた。

私は、雷に打たれたような心持ちだった。



村長、テンが見えていた?

トワ、って言った?



「さあて、そろそろかな」



テンが言った瞬間、匂いが濃くなった。

強烈に空間を支配する、消えゆく生命の匂い。



「待って、私、この人にまだ訊きたいことが」

「待ってだあ? オレたちゃバスじゃねえんだよ」



テンの身体が、内側に光源を持っているみたいに、光りはじめる。

いよいよなんだ、と何も知らなくてもわかる。


でも。

でも、お願い、もう少しだけ待って。