フレキシブル・ソウル


「いつそれ聞いたの」

「小学校の終わり頃や、ほんで僕、中学から戻ったんよ、お父さん、さみしいやろなって思って」

「なんだ、私に会いたかったんじゃないんだ」



再会した時、そんなようなことを言ってたと思ったのに。

大げさにへそを曲げてみせると、えっと林太郎が慌てた。



「会いたかったで、もちろん」

「村長の次あたりに?」

「なんやの、ほの意地悪」



あせる林太郎を笑うみたいに、セミがのんきに鳴いていた。

ポケットに入りっぱなしの林太郎の手を、ちょいとつつく。

林太郎は察しよく、ぱっと出して、私の手を握ってきた。



「林太ちゃん、こっちではちょっとお行儀悪いね」

「変な呼びかたやめてや」



赤くなるのと同時に、手が熱くなる。

くすくす笑うと、怒ったような顔をするくせに、それとは裏腹に、指を交差させてきた。

林太郎の手の熱を感じなくなったのは、たぶん、私のほうも熱くなったからだ。



「お父さんがふたりもいるなんて、いいじゃん」

「うん、僕は恵まれてるんやわ」

「私のお父さん、結局誰だったんだろう」

「残念やの、亡くなんなってたなんて」

「まあ、会わなくて正解とも思うけどね」

「わからんよね、ほういうのは」



うん、わからん。

私はすごくそう感じて、うなずいた。


町にさしかかるあたりで、チラシを配っている人を見た。

私たちの顔を見て、一度は渡すのを控えかけ、すぐに、親御さんと見てね、と一枚くれた。



「あれっ」

「あ、これな、こっちの新聞で、よく見るよ」



載っていたのは、おじさんの事件だった。

あのあと、刺された男性は病院で亡くなり、おじさんは故殺で再逮捕された。

チラシによると、実刑判決を受けた彼に、せめて執行猶予をと、有志の会が立ちあがったらしい。



「控訴するんやって、あんまり時間もないで、弁護費用の援助を募ったりしてるみたいや」

「ほんとに、このへんの人だったんだ」

「偶然やよねえ」