もちろんいままで、他の人をいいなと思ったことがないわけではない。
優してくれてる人は素敵だと思うし、
外見がかっこいい人と仲良くしたいとも思う。

でも、なんとなく。
待ち続けてしまう。


「ぷはーっ」
「ふふっ 今日もいい飲みっぷりですねさやさん」
濡れた髪を肩にかけたタオルで拭きながら、いつもとりあえずビールに手を伸ばす。
お酒に強いわけじゃないし、酔うとすぐ赤くなってしまうけれど、大学からの付き合いである由香里の家にくると毎回こうだ。由香里の家はわたしの家から歩いて行ける距離なので、よく泊めてもらっている。

「…っていうかぁ、あの男も会う度に毎回御飯行こうよとか言ってくるから仕方なく付き合ってただけなのに付き合って1ヶ月だよねとかなんなん?!別にこっちが期待させるようなこと言うてるわけでもないのに勝手に盛り上がって… そのせいでうちがどんだけ社内の女子から白い目でみられると思って!!」
「はいはい分かったから。咲耶酔うと関西弁戻ってくるんだからもう…」
テーブルの横にあるソファの端に寄りかかり愚痴をこぼす私を隣に座った由香里がたしなめる。
「そんなに大変なの?OLって」
さけるチーズをさかずに食べながら由香里が言う。

由香里は大学を卒業後、急に女優になりたいと思ったらしく、定職にはつかずバイトをしながらスクールに通っている。
勉強してきたことをすべて放り投げたかのように聞こえると思うが、本人はそんなことは全く気にせず、「ただやりたいことが出来たからやっている」らしい。
少なからず、私は由香里のそういうところが好きだ。

「大変だよもう。仕事は毎日おんなじことの繰り返しでつまんないし、それでもみんながぎゃーぎゃーおしゃべりしてるとこに入っていかなきゃひとことも喋らずに1日終わるし。
それこそ敵に回したら終わる……」
由香里は興味があるのかないのか分からない温度でふーんとうなずいた。