「…ばか」


5年前から、ちっとも変わってなかったのは、拓未の方だった。

5年もあれば、人は変わるのかもしれない。
そうあなたは言ったけど。
でも、私達が変わることは無い。

変わりたくない。

ずっと。


うっすらたまった涙を、頭をぶんぶん振って乾かすと、私はまたそのまま家を飛び出した。


***

夜の道は暗い。怖い。

…でも、彼を失うことの方がもっと怖い。

もちろん彼を自分のものだなんて思わないけど、
それでも、
大切にしてくれたんだから。

彼はいつだって、優しい嘘をつく。

私は走った。明るく光る街頭を頼りに上着も羽織らずニット1枚で。
寒いけど、あつい。


目的地に彼がいるかは正直分からない。
でも多分私達が最初からまた時を重ねられるなら、

彼はきっと………

「あ……」

ほら、また君はそうやって。


私と拓未が再会した、三日前のキャバクラの前。

彼はまた犬みたいに、座り込んでいた。
端正な横顔が、ぴりぴりした空気の中に浮かんでいた。

拓未は目をつぶって考え込むようにして座っていた。
前みたいに、雨は降ってない。


私がそっと拓未に近づくと、彼はそっと顔を上げた。

目を丸くして、即座に立ち上がる。

「咲耶?! お前こんな夜中に1人で出歩いて、
襲われでもしたらどうす……」

彼の言葉は止まる。

私はぎゅっと彼を抱きしめて、

涙が頬をつたったのが分かった。

「っ……ばか………」

なんだかすごく悔しくて、優しくて

暖かくて。安心して。

「ばかっ……ばかっ…」

彼の細くて厚い胸に、何度かそっと頭をつける。

拓未は何も言わずそっと私の腰と頭に手を回して引き寄せた。

ふわふわした、いつもの匂いがした。
また、時間が止まったみたいだった。

「なんっ………でっ………」

想いが止まらなくて、なのに上手く言葉に出来なくて、声が出ない。

「なんで…いっつも頼ってくれないの…」

彼は何も答えない。

「拓未の辛いときに…私はなんでいっつも…」

“そばにいてあげられないんだろう”

自分の心臓の鼓動がなんだか大きく聞こえて、
拓未に伝わりそうで、

…それでも、離れたくない。

ぎゅ、と力を込めると
拓未の鼓動も伝わってきた。