「間宮さん…」
私は席についている間宮さんに向かって大きく頭を下げた。
「この間は本当に、すみませんでした」
間宮さんは一瞬何のことだか分からない顔をして、そのあとふっと笑った。
「あぁ、大丈夫気にすんな」

その言葉に私は酷く安心して、隣の席に腰をかける。

私達は今日も、佐々木さんと拓未との会議に備え準備を進め、ふたりを待っていた。
あんなことで庇ってもらったから最初はなんだか気まずかった。
だがあの文面だけじゃ感謝は伝わらないと思い、直接頭を下げた。

「それより…」
間宮さんがふと私の顔を覗き込んだ。
いつもより近い間宮さんの顔が、真剣だ。
私はすこしどきっとしてしまう。
「お前、大丈夫なのか?」
「え?…」
何を言ってるのかわからないという顔をする。
私は多分今、すごくわざとらしく笑っている。
「なにが、ですか?」
「なにがって……」
間宮さんにはこれ以上迷惑はかけられない。
心配だってかけたくない。

間宮さんがふーっとため息をつき、私の頭の上に手を置いて、ぽんぽんっとした。
「わかった。なにも聞かないことにする」
その真剣な眼差しに、吸い込まれそうになる。

ふと、
ただふと、
5年前の拓未の姿を思い出した。

間宮さんは少し、拓未に似ている。

「……あのー、お取り込み中でしょうか?」
佐々木さんの苦笑いが炸裂する。
「あっ すいません」
私達は向かい合っていたので、2人が会議室に入ってきたことに全く気が付かなかった。
顔が熱くなるのがわかる。
間宮さんは冷静に椅子を座り直し、佐々木さんとの話を始めた。

後ろから入ってきた拓未はなんだか不機嫌そうで、私は首を傾げた。

なんだかこの職場で会うのは、違和感がある。

拓未の顔立ちも、2人で家にいる時とは違い
しっかりしている。

じっと見つめてしまっていたようで、拓未が不審に思ったのか、口パクで「なんだよ」と伝えてきたので、ぶんぶん首を横に振った。

朝の、拓未との続きの会話を思い出す。