「………は?」
押し出された感情が、いきなりせき止められたような気持ち。
「だーかーら、咲耶はまたすぐに俺のこと好きになるって言ってんの。」
「………ほんとによくそんなことが言えるね」
彼はまたゆっくり、私に近づく。
「咲耶は俺のこと、待ってたんじゃないの?」
胸がどきん、とする。
私は、私は。
ずっと、ずっと。
「待ってなんか…ない」
ずっと睨み続けていた瞳を、逸らしてしまう。
彼はそんな私を見てにやっとわらうと、壁の寄りかかる私の横に手をついて言った。
「お前なんかまた、2秒で俺に落っこっちゃうよ?」
私は今、心を決める。
「絶対あんたのことなんか、好きになったりしないから。」
私はそれだけ言って、家を出た。
なんでか、なんでなのかは全然わからない。
でも、涙は止まらない。
今まで信じてきた彼に裏切られたから?
違う。
今まで信じてきた自分に裏切られたからだ。
彼をずっと想い続けた、さっきまでの自分に。
人は、人を愛する事ができる。しかし、愛している人に愛されることは、到底できることではない。
漫画やテレビのなかで繰り返される運命は、きっとこの世の、何百万分のイチの確率なんだ。
だからこんなふうに裏切られたりすることだって、きっとざらにある。
…そんなふうに思っていないと、由香里の家に着くまでに涙がかわかない。
きっと由香里はクラッカーを持って、ケーキを買って、待っていてくれる。
誕生日おめでとうって、もうすっかり大人だねって、シャンパンでも開けよっか?って、
それで私は何事も無かったように笑って、ほんとにありがとって、それで…
「…咲耶?」
いつの間にか由香里の家に着いていて、私はすぐにドアを開けていた。
由香里が怪訝そうに眉をひそめ、とりあえずと抱きしめてくれる。
この日の夜、私の涙が枯れることはなかった。
