絶対、また彼を好きにはならない。



「…気づいたうえで、私に近づいたの?」
「そうだよ」
「私だって分かってて、昨日あんなことしたの?」
「あんなことって?」
私が答えに行き詰まると、彼はけたけた笑う。

「咲耶んちの鍵盗ったのも俺だよ?拾ったふりして。」
「…え?」
「だってそうしなきゃ近づけないじゃん。そもそもそんな偶然あるわけないでしょ」

ぴしっ

気付いたら思いっきり、彼の頬を平手打っていた。

「最低」
「…」

彼は少し離れ、そのまま下を向き続けている。
「なんで…… こんなふうになっちゃったの」

いつの間にか、熱い液体が、頬を滑り落ちていた。拭っても拭っても、拭いきれない思いが胸を突き刺していった。

彼はこちらに向き直り、変わらない笑顔で言う。
「5年もあれば人はいくらでも変わるよ」

その顔で、表情で、声で
そんなこと、言わないで。
5年前の彼を今も、私は待ち続けているのに。

やり場のない感情が、後から後から溢れ出てくる。

「昔はもっと…」
「もっと…何?」
彼の表情は冷たい。
笑顔はなく、人の温かみを無理やり消したような。

「あのさぁ咲耶」
彼の温度は低いまま。
さやという名前も、違う風に聞こえる。

「咲耶は」
彼は、拓未は、せつなげに、
そして危なげに、
私にこう告げた。

「また絶対俺のこと好きになるよ」