「ふぁ〜あ」
長いあくび。夜は12時を回っている。
お客さんと、キャストとの間にあったきらきらした時間は終わり、今は由香里がスタッフさんと明日の打ち合わせをしているので待っているところである。
キレイな照明も可愛いドレスもなくなって、なんだかほんとにシンデレラみたいだ、と思った。
私服に着替えた私は急に眠くなり、まぶたに侵食されそうになる。

「さーやっ」
後ろから頭をこずかれ、やっと意識をはっきりさせることができた。
ふかふかのソファから腰を離し、お店を出て夜道を歩く。

「わたし、迷惑かけてなかったかなぁ…?」
「大丈夫だって。むしろ人気だったじゃん、またお店来てほしいくらい」
「…考えとく」
「あっはは 相変わらず真面目ちゃん」
由香里が出した声は月を掬い上げる空に吸い込まれていく。

「よし、じゃあまたあしたね。」
「うん、ばいばい」
由香里はいつも、明日会う予定はなくても、またあしたね、という。
私はその言葉に、いつも安心している。

夜の道路を小さく歩く。
吐く息は白い。
「まだ11月なのにな…」
小さくつぶやいた。
家のアパートの階段を上り、家に入ろうとバックをまさぐり鍵を探す。

「……あれ?」
鍵がない。
その場にしゃがみこみ、カバンをひっくり返す。
「ない……」
考えられるのはお店か、その道中か……
私は来た道を引き返そうと決めた。

………雨。
歩き出した途端だった。
今はまだ小雨だが、これから来そうだ。
折りたたみ傘を持ち合わせていたのが不幸中の幸いであった。

…それにしても寒い。冷たい。ほんとについてない。
最近こんなことばっかだ。
小走りにお店への道を急ぐ。

鍵がなかったら由香里の家に泊めてもらおう。
鍵屋さんこのへんにないんだよな…

大通りを曲がって脇道に入り、お店のある路地を歩く。
やっぱり夜中に1人でこの辺を歩くのは心細い。

そのとき、店の前に男の人が座っているのが見えた。