「ねぇ」
彼は下を向きながら、私に言葉を投げる。
「怒ってる?」
「へっ?」
予想外の言葉に、私は顔を上げ彼を見た。
「いや、出会い頭にどんくさいとか、さすがに失礼だったなと思って。」
彼は自分の指をそれとなく触りながらこちらを向いた。
「ごめんね?」

時間が止まってみえた。
毛先をはねさせた黒髪、黒目の大きいタレ目気味の瞳、通った鼻筋、うすい唇、そして彼が出す声が表情が言葉が、

記憶のなかのダイアローグと一致する。

「…俺の顔になんかついてる?」
彼は怪訝そうに眉を傾ける。
「え… あっ いや 何でもないです。」
慌てて目を逸らす。

よく考えろ。
ここに拓未がいるわけがない。
彼は今兵庫にいるはずで、なんせキャバクラなんかにくるような性格じゃない。

彼は由香里ともう1人の男性との会話に入っていった。
「こいつ、社内で女落としまくってて迷惑してるんだよねー。黄色い歓声は常にこいつが独占してるし。」
「いや、そんなことないっすよ」
「確かにかっこいいですもんねー」

由香里が話を進めてくれている間、私は彼の横顔をずっと眺めていた。