ただしいあなたのころしかた




***



一言も話せなかった。


おかしい。


朝、たいして中身のない会話をしたっきり、あたしは石川くんにどう話しかけてよいものか、もとい昨日までどんな話をしていたかも思い出せずに、悩んでいるだけで一日が終わってしまった。


もしかして恋人同士になったからには一緒に下校したりして、放課後デート的なイベントが待ち受けているのではと石川くんからの誘いを少し期待していたけど、帰りのホームルームが終わるや否や石川くんはさっさと一人で帰ってしまった。


教室に取り残されたあたし。空しい。


付き合っていなかった昨日までと、付き合った今日、むしろ距離が遠くなった気さえする。



「――普通、付き合ったらさ! 手つないで一緒に帰ったりするよね? で、石川くんが柄にもなくあたしのことうちまで送ってくれたりするんじゃないの……っ」

「多分、普通だったらねー。石川くんはしなそう~」

「ていうかどうしよう、今日一日全然話せなかった! このまま一生石川くんと話せないのかなあたし……!?」

「のんちゃんずっと挙動不審だったもんねー。石川くんはすごい、普通だったけど」

「はーああああ」



がっくりとうなだれるあたしに、喜美ちゃんはよしよしと髪の毛を撫でてくれる。優しい。天使。