平静さを装ったかいは全くなく、体温の上昇が顔に出て全部ばれてしまう。
は、恥ずかしすぎる……。むしろ平静さを装うとしたのが恥ずかしい。
「石川くん、あの、」
「さっきの会話なら聞こえてたけど、夢だったんだ? 昨日のこと」
「えっ」
「夢だったんだ」
「ゆっ、」
「夢?」
「夢じゃない……!」
「夢じゃないね」
「夢じゃないんだ……」
「え、喜美ちゃんその顔……疑ってたんだ……」
「だってのんちゃん話しながら自分で夢みたいって顔してたじゃない」
相変わらず涼しい顔の石川くんは、それだけ話すと満足げにうんと軽く笑って自分の席に戻って行った。
「喜美ちゃん、……夢じゃなかったね」
「夢じゃなかったみたいだねえ。夢みたいだけど」
「ほんと夢みたい」
「夢じゃないとしたら問題な部分もあるけどね? すっかり考えないようにしてるみたいだけどのんちゃん」
「え?」
「石川、のんちゃんのこと好きなわけじゃないんでしょ?」
「え?」
「えじゃなくて」
呆れ顔で喜美ちゃんは石川くんの方をちらりと見やった。
あたしの彼氏。
席に着くや否やそそくさと本を取り出すと相も変わらず読書を始める。
昨日別れた時と比べて、多分30ページくらい進んでる。
家で読んだのかな。いつもの進捗スピードと比べると少し遅い。もしかしてあたしと付き合ったから、あまり集中できなかったとか?

