「付き合ったら?」
「え?」
「大ちゃんと。浮かれる価値あるんじゃない?」
「そんな……、あたしが好きなのは、石川くんだけど、」
「うそ」
うそ。って。今までさんざんアプローチかけてたじゃないあたし。気付かなかったとでも言うつもりだろうか。
コーヒー苦い。砂糖もミルクも入れなかったから。
チョコレートケーキは相変わらず味がしないままだ。口の中がパサパサする。せっかく飯田くん一押しなのに。素直に味わえたのは最初のひとくちふたくちだけだった気がする。勿体ないな。
「明石さんが俺のどこをそんなに好きになったのか教えてあげよっか」
「全部だよそんなの! どことかない!」
「俺が明石さんのこと絶対好きにならなそうだったからでしょ」
「何それ意味わからない」
「男除けとして使ってない? 俺のこと」
「あたしが石川くんの好きなところは、全部だよ」
「ほう」
「全部だよ」
自信満々に言い切ってはみたものの、石川くんは無表情のままで何考えてるのか全く分からない。
いたたまれなくなって無言の時間を埋めるようにカップに口をつけてしまうから、さっきまでカップの中でたぷんと揺れていたコーヒーはもうほとんど残っていない。
石川くん。どうしてそんなことを言うの。

