背中で石川くんの気配を感じて、一挙一動に意識が集中してしまう。
ケーキを食べながら、だんだん味が分からなくなる。
今向かい合って座っているのは飯田くんだから、何か別の話題でも出して会話すべきだとは思うけど、上の空になってしまう。
「明石さん」
「え?」
だから、ついに飯田くんに名前を呼ばれた瞬間、申し訳なくなって罪悪感を覚えた。
ひどいのはあたしの方なのに、飯田くんの方が申し訳なさそうな顔を作っていて、さらに胸が痛んだ。
「ご、ごめん……、ケーキ、さっさと食べちゃうね、お店出よう」
「いや、俺こそごめん」
「いやいや、なんで!」
「今日はやっぱ、俺が帰るよ」
「え?」
「明石さん、石川といな?」
「……え?」
びっくりして、持っていたフォークがお皿に当たってしまい、かちゃりと音が鳴る。
飯田くんのコーヒーカップはいつの間にか空になっていて、チョコレートケーキはクリームごと既に完食されていた。
……石川くんといなって? 飯田くんは?
「ど、どういう、」
「いいよ、明石さん、石川に構いたくて仕方ないって顔してるし。ていうか、俺が明石さん好きになったきっかけ、石川追っかけてる姿が可愛かったからだし。今日は身ぃ引く」
あたしが戸惑っている間に、飯田くんは伝票を持って立ち上がってしまった。

