さよならは言わない


「森田さんと話をしていたんじゃないの?」

「もう終わったよ」

「来てくれてありがとう」

「運転手が絵里と江島が大喧嘩しているからって助けを求めてきた。まさかと驚いたよ」


それにしては来るのが早かった。多分、運転手からの電話の前にはここへ向かってくれていたんだ。

ならば、尊はいつからあそこにいたのだろうか?
私と江島さんのやり取りをどこまで聞いていたのだろうか?

江島さんに負けたくなくてあんなセリフ言ってしまったけど、尊は私を憎みはしても愛してはいない。なのに、恥ずかしい。


「さっきの会話聞いていたの?」

「ああ、最後だけ。非常に興味深いセリフだったよ」

「……え……と。忘れてくれる? あれは、その、売り言葉に買い言葉って奴で、だから……」

「だから?」


尊は私の顔を見ると優しい笑顔を見せてくれた。

私のセリフに怒っているかと思っていたが、そんな素振りは一切なく私の肩を抱き寄せると耳元で優しい声で囁かれた。


「絵里は最高だよ」


その言葉をどう捉えていいのか私には今一つ理解できないでいたけれど、でも、尊の表情を見るからに再会した頃よりは憎しみは少なくなっている?

尊の優しい笑顔だけでなく優しく包み込まれるかのように抱きしめられ重ねられる唇に、やっぱり尊は再会した頃よりは私のことを大事に想ってくれていると感じた。


「尊、運転手さんが……」

「気にするな。君は俺の婚約者なんだからキスしたい時にキスする」


抱きしめられた体がとても熱くて息も熱くなる。お互いの甘い吐息に頭まで蕩けてしまいそうになる。

少し唇が離れると甘く優しい尊の笑顔が私の目の前に現れ、まるで私のすべてを包むような瞳で見つめられていた。