さよならは言わない


江島さんに尊を取られたくない想いと、もう一度あの頃のように尊と幸せな日々を過ごしたい想いとで言い放った言葉だけど、尊の愛は私にはないと自分に言っている様で悲しくもあった。


「絵里」


背後から聞こえる私の愛しい人の声。

今の私のセリフを聞かれたのだろうかと怖くなった。

もし、ここで尊に拒否されれば私はどうしたらいい?

もう私には縋る人もものもなくなる。明日から何を頼りに生きていけばいいの?


「もう大丈夫だ。一緒に帰ろう」


力尽きて座り込んでしまった私を抱きかかえ車へと乗せてくれると一緒に尊も車に乗ってくれた。


「尊!! 待って、私は尊のことをずっと愛しているのよ!」


江島さんは尊を取り戻そうと必死に喰いついてくる。

だけど、尊は江島さんの顔を見ようともしなかった。

車のドアが閉められると江島さんは尊の横の窓を手で必死に叩きだした。今すぐに開けろと脅迫めいた声が駐車場に響いているのが分かる。

すると、尊は少し窓を開けると江島さんを横目で睨みつけるように見ていた。


「君は森田の愛を得られなくて俺を利用しただけだ。そういつまでも愛のない女と戯れて遊ぶつもりはない。俺には守るべき女がいる」


尊はそれだけ言うと窓を閉め車を出すように運転手に命じた。

尊は江島さんを愛していなかった。その事実に私は急に心が軽くなってしまった。

そして、自分が江島さん投げつけた言葉が急に恥ずかしくなった。