さよならは言わない


「でも、離婚を前提に結婚するんでしょう?」


やっぱり、今の尊の考えが分からずそうなってしまう。

だって、尊は私を快く思っていない。憎まれている存在なのに、契約で私を縛りつけて苦しませているのに、そんな尊をどう信じればいいの?


「離婚もなしだ。絵里、美香に兄弟を作ってやろう。美香の分まで幸せになろう」


抱き締められる尊の温もりがもし美香を妊娠したときならどんなに嬉しかったか。

やっぱり、美香への罪滅ぼしのような結婚はしない方がいい。

でも、美香を思えば独りぼっちの寂しいところに眠らせたくない。

尊と結婚すれば美香は松崎家からたくさんの人に見守られる。

もう、美香に寂しい思いをさせなくていい。

そう、美香の為に。


「分かったわ。美香のために結婚する」

「……そうか、ありがとう」


抱き締められる尊の腕に力が入ったかと思うと、尊は私から離れソファーから立ち上がり自分のデスクの椅子へと腰かけた。

そして、電話の内線ボタンを押し秘書に森田さんを呼ぶように指示した。


「どうして森田さんを?」

「今後の話の必要があるからだ。絵里、派遣の仕事は辞めてもらう」

「でも……」

「専務の妻になるんだ。そこのところを考えてくれ」


私は専務の妻になる。

これまでのような派遣社員では尊に恥をかかせてしまうから?
私は尊の妻としてやっていけるのだろうか?

あれほど望んだ尊との未来なのに今は不安で胸が押し潰されそうだ。