さよならは言わない


「それに、俺と結婚すれば絵里はこれ以上の苦労はしなくてもいい。仕事は辞めていいし今の心療内科での治療に専念してもいいと思っている」


尊のその言葉はきっと本音なのだと思う。尊はあの頃は優しかった。私の事をとても大切に扱ってくれていた。

だから、きっとこのセリフも尊の本心なのだと思う。

そんな尊の言葉に甘えればいいのに、今、尊に甘えてしまえば今度こそ尊に捨てられたら生きていけなくなると、その事ばかりを考えてしまう。


「結婚期間はどれくらいなの? 契約書は交わすの?」

「絵里! この結婚は契約なんかじゃない。本物の結婚だ」


その言葉をどう信じろと言うの? 今の恋人同士の関係だって契約に基づいたものなのに。

そんな尊が人生に置いて最も重要な結婚を契約なしで決意するはずないわ。


「俺は絵里を守ってやりたいんだ。だから、これは本物の結婚で契約書もなければ結婚期間も定めない。俺達の結婚は永遠のものなんだよ」


私には尊が分からない。何故、金目当ての女と結婚が出来るのか。

それも本物の結婚をしようとしている。契約期間は今回はない。永遠ということは無期限のものとなる。

私達の間でそんなことが出来るのだろうか?


「絵里、君はこれまでずっと苦しんで来たんだ。もう苦しむことはない。俺がついているから」


抱きしめられる尊の腕がとても優しく「Yes」と答えたくなった。