「あなた専務と暮らしているの?」

「ええ、そうだけど? 問題あるかしら?」


江島さんの顔色が変わるとかなり手が震え出した。

きっと、この人はまだ別れを受け入れられないのだと思った。

あの時の私の様に。

あの時の私は一方的に訳も分からなく捨てられたけど、この人は新しい恋人が出来たから捨てられた。

同じ捨てられ方でも理由があるのと無いのでは全然意味が変わる。

それに、諦めもつく。


「残念だけどあの人の心にはあなたはいないわ」

「何様のつもりよ! あんたね、いきなり現れて好き勝手なことしないでよ!」

「でも、事実よ。今、尊の心には一人の人しかいないの」


そう、今の尊の心を占めるのは美香だけ。この江島さんではなく、私でもない。

今の尊は我が子を一度も抱くことなく死なせてしまったことへの悲しみしかない。


「その人はあなただと言いたいの?」

「さあ、どうかしら? 尊に聞いてみれば? きっと江島さんになら教えてくれるかも知れないわよ」

「生意気よ」


なんと言われようとも平気。

こんな心の傷は昔味わったのより辛くない。

本当に辛いのは尊の悲しむ顔だ。美香の写真を見た時の悲しそうなあの顔を私は忘れることが出来ない。