さよならは言わない


「あの、森田さん? つかぬ事お聞きしますけど。もしかして、今日私を連れて得意先へ打ち合わせ行くのを専務に話しました?」

「……え……と。話したと言うより、連れ出してくれと頼まれたんだよ。笹岡はフロアでは息が詰まることが多いだろうし今日は特に気分転換が必要だからって頼まれたんだよ」


尊が森田さんに頼んだ? 気分転換に?
でも、美香が自分の娘と知った時、私以上に尊の方が苦しんだのに。なのに、尊は私の心配をしてくれていたの?
外出するから虫よけをしたの?
そとで私が変な男に引っかからない様に?


尊ってそんな時間から今日の私を心配してくれてたんだ。

何だか嘘みたいで凄く嬉しい。

尊にそんなところまで考えてもらえていたなんて嬉しすぎる。


「専務とは上手くいっている?」

「……え、と。どう答えていいのか悩むんですけど」

「専務は長男の立場があるからかなり以前からそのことで悩んでいたようだよ」

「森田さんは専務とは親しいんですか?」


森田さんは他の社員とは少し違うような気がする。

尊は森田さんに信頼を置いているようだし、森田さんも尊の為には指示通りに動いているような。

忠実な部下と言うと大げさだけどそれに近いものがありそうな気がする。


「親しいと言えば語弊があるかな? 俺は次々と商談をまとめている関係で専務と話す機会がどうしても多くなってね。大きな物件の時は必ず専務と組んで仕事をするから仕事以外の話をするようにもなったんだ」

「プライベートの話もしたりするんですか?」

「例えば君が専務の昔の恋人だったこととか?」


尊は森田さんにそんな話まで聞かせていたの?!
尊にとっては森田さんは部下であって友人ではないのでしょう?