さよならは言わない


社内の気分の悪い雰囲気から助け出してくれた森田さんに感謝しつつも、やっぱりここにいるのが尊だったらどんなに嬉しいかって思ってしまう私は病気なのだろうか?


あれほど尊には嫌われ、美香のことも隠し通せなくて尊に知られてしまい尊の怒りを買ってしまった。

なのに、それでも、尊を求めている自分がいることに気付く。

契約なのにと言い聞かせても、やはり、同居してしまうと昔を懐かしんであの頃に戻りたいと期待してしまう。

私って馬鹿な女だと自分でも分かっている。



「どうした? 疲れたのか? どこか休憩していく?」

「いえ……大丈夫です」


いけない、今は森田さんと仕事で外出中だった。

尊の事を考えるのは止そう。



「あ……」


「え?」

「いや、何でもない」


森田さんは私を見下ろしていたけれど急に顔を背けてしまった。

私は何かしたのだろうか?と、もしや服装でも乱れたかと胸元を見るも得意先で頂いたお茶を溢してはいないしボタンが外れてもいない。

別段どこも変な所は見当たらない。

森田さんは顔を少し赤めて自分の首筋を指さした。

私は何だろうかと指で触ってみると何も変化はない。

頭を捻っていると森田さんは言い難そうに口をもごもごさせて小さな声で言ってくれた。


「それ、専務のキスマーク?」

「ええ?! うそっ!」

「それ思ったより目立つよ?」


今朝、家を出る時に首筋にチクリと感じたのはこれだったんだ。と、今頃気付くなんてもの凄く恥ずかしい。

あの時「虫よけ」って言ったのは私が今日森田さんと外出すると知っていたから?