洗濯してもらった服が乾いてることを確認して、はるかは袖を通した。
午後はでかける。
暗くならないうちに帰れば大丈夫。
小さい鈴がついた鍵をポケットに突っ込む。
透き通るような師走の空だった。
無意識のうちに、
なるべく大通りを歩いていた。
10分ほど歩くと駅ビルにつく。
中に入ってCDのお店に入った。
つぎに本屋さん。
とくに買うものはないけど、
見るだけでも楽しいものだ。
雑貨を見る。
好みのパスケースを見つけた。
ワインレッドの合皮で、縁は黒。
3000円の値札付き。
即陳列棚に戻した。
でもかわいくて、
何回も手に取ってしまう。
取っては戻して取っては戻して。
そんなことを繰り返していると、
携帯が鳴った。
「もしも…」
「はるか」
手にしていたパスケースが足元に転がった。
おじさんだ。
全身の汗が吹き出る気がした。
心臓を鷲掴みにされたような感覚が鼓動と共に増してくる。
「…っ」
「帰ってきてくれよ、酒がねえんだよ。な?頼むよ」
声が出ない。
息もできない。
手汗で携帯が滑り落ちそうになる。
「聞こえてるか?はるか?もしもし」
「あ…」
「聞こえてんなら返事しろよ!!!!」
ついに携帯が落ちた。
膝ががくがくと震える。
座り込みそうになる。
「おい!無視してんじゃねえよ!!今すぐ金持ってこいよ!!!」
床から怒鳴り声が聞こえる。
口を覆って、歯を食い縛る。
店員さんが不審そうにこっちを見てくるのを気づく余裕はなかった。
よろよろと後ずさると、背中が壁に当たった。
その途端、弾けたように一目散に走り出した。
「あっ、お客さま!」
店員さんが携帯を拾って声をかける。
はるかは無視してお店を出た。
すれ違った人と肩がぶつかる。
立ち止まって謝れない。
「はるか!はるか!!聞こえてんのかはるか!!!!」
店員さんの持つ携帯からはいまだに怒鳴り声が響いていた。
