「…いいじゃない。早く仕事を終えて出て行ってくれるのなら」


願ったり叶ったり。

何も言うことはない。



(そうよ。これでいいのよ)



嫌な気分になる必要はない。

元からこの家に置かなくてもいい人だ。




高島が出て行った後、1人黙々とハンバーグを食べ続けた。

不思議と辛味も何も感じず、だからと言って美味しいとも思えない食卓だった。


(1人の食事ってこんなだったっけ?)


音も何もない。

侘しさだけが募る。



「アラフォーの一人暮らしなんて、寂しいばっかだぞ」



高島の言葉が蘇る。

寂しいんじゃない。

無性に侘しんだ…と思い出した。



カチャ。

茶碗の上に箸を渡した。



「ご馳走さま」


手を合わせても向かい側で挨拶していた人は居ない。

し…んと静まり返ったキッチンに1人。

それが堪らなく不安を感じさせる。



(お母さん……)



ツン…と鼻の奥が痛くなる。

そのことを受け止めて、「…っすん」と一言呟く。


いつもならそれで済んだ。

でも、この時だけは何故か無性に悲しかった。



(バカな私…)



涙が一粒溢れた。

母が亡くなって以来、初めて流した涙に近い。



もうすぐ本当のお一人様になる。


そして、私は36を迎える。