未熟女でも恋していいですか?

(…そうだ。お母さんが住んでいいと言ったと言われたんだ…)


6校時目の授業の準備をしながら思い出した。

高島が初めて我が家を訪ねてきた日、すき焼きを振る舞った後で言われた。


驚いて見直した遺影の表情が変わっていた。

それが不思議で仕方なくて、茫然と見つめ返してしまった。



「そうよ。あの事さえなかったら、置いたりしなかったの!」


母と長年二人暮らしだった私にとって、その言葉は絶大な効果を発揮した。

そんなふうに母が思っているから、写真の表情も違って見えるのかと思ってしまった。


……現に、今朝の表情も明るかった。

「家の壁が綺麗になるよ」と語りかけると、「良かったわね」と声が聞こえてきそうなくらいに。


藤の花と同じ色に壁が塗られる。

それが嬉しいせいもあり、余計に母が笑って見えた。



「だからって、絆されたりしちゃ駄目…!」


もう一度、きちんと声にしておこう。


「私は1人でないと駄目」


男が手の届く範囲にいるというだけで虫酸が走る。

家族のように振る舞う高島との生活が順調なように思えても、いざとなるとやはりあんな感じだ。



自分のトラウマに嘘はつけない。

いざとなると、簡単に発作が起きる。



(情けない…!いつまで経っても……!)



考えまい。

忘れよう。



一生懸命暗示をかけても、あっという間に過去へ引き摺られる。

手首一つ握られてもああなら、その先のことはもっと困難だ。