ゆったりとお湯に浸かった日の翌朝は、意外にも目覚めが良かった。

いつも通りの6時半に起きて、ヨロヨロとした足取りだったのは最初の数歩のみ。

後はしっかりと床を踏みしめて、廊下へと出られた。




「…おはよう。カツラ」


玄関先から名前を呼ばれて振り向く。

頭にタオルを巻いた男が立っている。

一瞬、誰だったろうか…と考えてしまった。



「お…はようございます。た、高島さん…」


アオムシを1人家に引き込んでいた…と思い出した。

名前を呼び捨てにしろと言った本人は、それについて深く求めることはなかった。



「早起きですね。何をしていたの?」


外から入ってくる男に尋ねる。


「壁の状態を見てた。汚れてはいるが傷んでるとこはなさそだ。だから、直ぐにでも塗装に入れる」


「…そう。良かった。…あの、今日塗料を買いに行かれるんですか?だったら代金を用意しますけど…」


「いや、今日はまだいい。先に下地剤を塗って、それからにする」


「そうですか…」


さっさと塗って出て行って欲しいのに…と、声に出せない思いを抱いた。


私はこの男のことを信用しているとは言い難い。

昨日のことがあってから、余計にその思いが募った。



「……じゃあ朝ご飯作りますね」


部屋のドアを閉め、キッチンの方へ向かって歩き出した。


「…あっ、それなんだけど…」


「えっ?」