「今日は早く綺麗にしたかったから行ってねぇ。明日は行ってみるよ」


「ふぅん…お金入っているといいわね…」


「ああ。でないと困るからな」


そうか。一応、困ってはいるんだ。



(顔には出ていないけど……)


「何だ?そんなに俺がいい顔か?」


アホか。

すぐそんなことを言う。


「いーえ別に!人並みでしょ!」


調子に乗るな。


「ちぇっ、カツラは乗らねぇ女だな」


ガキ…と囁かれる。

むっとするけれど相手にしない。

したらまた負けだもの。



「ご飯作るの止そうかな~」


わざとらしく言ってみた。


「えっ!?それは困る!」


腹ペコアオムシの鳴き声が聞こえだす。

さっきまでのは、どうやら虚勢を張っていただけらしい。



「冗談よ!直ぐに準備するから」


やっぱり飼い主の勝ち。


高島は嬉しそうな顔をして、「ホントに急いでくれ!」と手を合わせた。




(変な男……)


料理しながらも笑える。

やっぱりどうも調子が崩される。

この男のことは、やっぱり何処か憎めない感がある。




トントン…と食材を切る包丁の音も軽快な気がする。

母が亡くなってからこっち、聞いたこともないくらい明るい音だ。




「楽しそうだな」

「えっ!?」


横に来た男の顔を見つめた。


「楽しそう?私が?」


「うん。そう感じた」