もう35を終えようとしているけれど、まだまだ熟していない。

世間的には熟女に近い歳なのに、気持ちはまだ未成年みたいなものだ。



「いいのか?」


あれ程、出て行けと言っていた私が急に態度を変えたのを不思議がっている。

その彼に向かって、「いいよ。食事は1人で食べるより2人でする方が美味しいから」と返事をした。



「どうぞ入って。先にお風呂を使って下さい。その間に食事を用意します」



笑いで溢れた涙を拭いた。

戸惑うように微笑む男の後ろで、真っ白に塗られた藤棚が輝いている。

美しさを取り戻した棚に巻き付いている蔓の先に、花芽の膨らみが見え始めていた。



「じゃあ、先に手を洗って仏壇を拝むよ」


信心深いのか、礼儀正しいのか知らないけれど、この男のこんなところは好感が持てる。



「うん。母が喜びます。きっと…」



何故そんなふうに思ったのか分からない。

でも、さっきの母の写真の表情が、それを待ち望んでいるようにも思えた。




「晩メシって後どのくらいでできる?」


玄関扉の隙間をくぐりながら高島が尋ねる。



「俺、すげぇ腹ペコなんだけど……」



その言葉に再び笑う。



ーー卯月の夕闇が迫る頃、

私はやっと、誰かと2人でいることに


ホッと、させられた…………。