…今はもう何ない。
手に触れる場所に母は居ない………。
「…っすん」
目の奥で涙が潤みだす。
それを流さないよう、わざと声に出して顔を上げた。
「……あれ?」
家の前に見覚えのある軽トラックが止まっている。
ナンバーは覚えていないけれど、荷台の鉄柵に結んである黄色のビニール紐には見覚えがある。
「まさか……」
呟きながら少しずつ胸が鳴る。
まさか、まさか…と思いながら足を速め、門扉の角を曲がって立ち止まった。
庭には新しい柱が立てられた藤棚があった。
真っ白いペンキを塗られた棚からは、シンナーのような香りが漂ってくる。
鼻を突くような臭いに眉根を寄せながら近づくと、その下で作業をしていた男は私に気づき、威勢のいい声を発した。
「よぉ!お帰り!」
白いペンキの掠った跡が頬に付いている。
頭に被ったタオルにも、所々同じ様に付けている。
「何しているの?」
と言うか、何故まだ居る?
「見りゃ分かるだろう。ペンキ塗り」
手を休めずに塗りながら答える。
「そうじゃなくて、どうしてまだ居るの?…それに、私が頼んだのは柱の交換だけで、ペンキ塗りまでは頼んでない」
そう。それだけしか言ってない。
なのに、何故こんな余計なことを……。
「色塗った方が庭が華やかになっていいだろう。庭の彩りにもなるし」
当然だろうといった感じ。
でも、私は全く解せない。
手に触れる場所に母は居ない………。
「…っすん」
目の奥で涙が潤みだす。
それを流さないよう、わざと声に出して顔を上げた。
「……あれ?」
家の前に見覚えのある軽トラックが止まっている。
ナンバーは覚えていないけれど、荷台の鉄柵に結んである黄色のビニール紐には見覚えがある。
「まさか……」
呟きながら少しずつ胸が鳴る。
まさか、まさか…と思いながら足を速め、門扉の角を曲がって立ち止まった。
庭には新しい柱が立てられた藤棚があった。
真っ白いペンキを塗られた棚からは、シンナーのような香りが漂ってくる。
鼻を突くような臭いに眉根を寄せながら近づくと、その下で作業をしていた男は私に気づき、威勢のいい声を発した。
「よぉ!お帰り!」
白いペンキの掠った跡が頬に付いている。
頭に被ったタオルにも、所々同じ様に付けている。
「何しているの?」
と言うか、何故まだ居る?
「見りゃ分かるだろう。ペンキ塗り」
手を休めずに塗りながら答える。
「そうじゃなくて、どうしてまだ居るの?…それに、私が頼んだのは柱の交換だけで、ペンキ塗りまでは頼んでない」
そう。それだけしか言ってない。
なのに、何故こんな余計なことを……。
「色塗った方が庭が華やかになっていいだろう。庭の彩りにもなるし」
当然だろうといった感じ。
でも、私は全く解せない。

