何で?

どうして?

誰がこんな男を家に入れたの!?



「私か……」



愕然として座り込む。

目の前で寝込んでいる男は、よほど疲れているのか目を覚まそうとしない。


今のうちに警察に電話を……

でも、何もされていないうちから呼ぶ訳にもいかない。


不法に侵入している訳でも、物を盗られた訳でもない。

行き倒れてしまいそうな男に対して、ご飯を食べさせてやっただけだ。



『救済措置』


相手に言った言葉が思い浮かぶ。


…そう。単純にそれだけが目的。



なのに。



「一緒に住んでやる…とか、冗談にも程がある」


そんなこと言ってないわよね…と、母の遺影に視線を移すと、やはり顔は笑って見えて。




不思議な感覚に襲われた。

昨日の…いや、今朝までは確かに複雑で悲しそうな表情にしか見えなかったのに。



「とにかく、目を覚ますまで待とう。追い出すのはそれからでもいいや」



和室の押し入れから毛布を取り出し掛けてやった。


平和そうに寝込む高島の寝顔は可愛く見えないこともない。


でも、所詮やはり他人で見知らぬ男だ。



冷たい目線を向けて部屋を出た。

暫くぶりに洗う2人分の食器に少しだけ心が癒される。


二膳の箸に胸を熱くさせながら黙々と皿を洗い、1人ではないのだということを実感する。


たったそれだけのことが嬉しく感じるなんて、今の自分はどうかしている。