「いい年して火事に遭ったくらいで帰れるか。余計な心配かけるだけだろ」


「でも、色々と困ったでしょ!?」


「だから、あのおっさんの所に世話になったんだ」


「おっさん…って、ご住職のこと?」


「ああ。あれ、婆ちゃんの弟なんだ」


「えっ!?親戚!?」


「まあ、そういうこと」



……なんだ。

それであの態度か。


「おっさんの寺で壁の修繕やってる時にカツラのお母さんが話しかけてきて現在に至る」


「ちょっとちょっと」


省き過ぎだし。


「兄弟とかいないの?」


「いるよ。兄ちゃんと弟が1人ずつ。俺は3人兄弟の真ん中で一番の親不孝者なんだ」


「な…何故」


「専門学校は辞めるし家出はするし、ろくな生き方してねーから」


威張って言うようなこと!?

そもそも、そのろくでもない生き方ってどういうの!?


「で、でも、左官の仕事は真面目にしてるじゃない」


必死でいいとこ見つけてやった。

何故私が繕わなきゃならないんだ。


「真面目って言うより頼まれると断れねぇんだよ。左官料なんて安いのにさ」


唖然。

……と言うか、この人やっぱり変。


「じゃ、じゃあ他の仕事すれば?」


「この年でか?」


「無理?」


「難しいな。それに、別に嫌いでやってる訳でもねぇから」


足を崩して胡座をかいた。


「そう言えば、師匠みたいな人がいるって言ってたけど、その人は?」