食器洗いが済むと、高島は私を仏間に呼んだ。


「カツラの両親にも聞かせたいから」


何処までも律儀な男だ。

両親が生きていたら、さぞ感心することだろう。


慣れた手つきで線香に火をつけて拝む。

上っていく煙を見上げながら、高島が語りだした。



「……俺が生まれた町は、この間一緒に出かけた所だ」


「えっ!?あの川のあった場所!?」


のっけから驚かされた。


「そっ。あそこで小学校を卒業するまで暮らした」


石切りが上手かったのも、美味しいお蕎麦屋さんを知っていたのもそのせいか。


「もしかして、あの時言ってた言葉…田舎はいいな…って本当にそう思ってたの?」


「当たり前だろ。自分の生まれ育った町なんだぞ」


仏壇に向いていた体が反転した。


「それならそうと言ってくれれば良かったじゃない」


「俺のこと知らないくせにって言ったじゃねぇか」


「…でも、それだけじゃ分からない……」


反論しかけて口籠った。

あの時に教えられても、果たして聞く耳が持てたか自信ない。

今ほどの親密性があったとは言えない状況で、この男が話すとも思えない。


高島の顔がニヤつく。

その顔に口を噤み、次に出る言葉を待った。


「あそこを引っ越して隣の県に移り住んだ。中学、高校とそこで過ごして、親と婆ちゃんは今でもそこに暮らしてる」


「隣の県なら近いじゃない。火事に遭った時どうして帰らなかったの?」


素朴な疑問をぶつけてみた。